「木みたいな老人」「歯がいっこの老人」と言われてどう演じるか?/2020.08.01~02 第3回「いきなり本読み!」REPORT

文=前田隆弘(編集者)
写真=平岩と坂本

2020年2月にスタートし、この8月で早くも今回で第3回を迎えた「いきなり本読み!」。
今回は本多劇場で、2日間での開催となりました。

念のため、「いきなり本読み!」とはどういう企画なのか説明しますと…。

舞台の稽古で「本読み」ってあるじゃないですか。
俳優たちが稽古場に集まって、台本を読んでいく、というやつ。
「あれをお客さんの前でやったら面白いに違いない!」と岩井秀人さんが思いついて始めたのがこの企画なのです。

ただ稽古の本読みと違うのは、イベント本番で初めて台本を渡され、そこで配役が決められること。
文字通り「いきなり本読み!」の状態で、俳優たちはその場で役人物のイメージをふくらませながら本読みをしていく。
観客はその試行錯誤のプロセスに面白さを感じたり、思わぬ発見をしたり、
それまで見えなかった俳優の実力を目の当たりにしていくわけです。
それまで見てきた「演劇」とは通じるものがありつつも、それまで味わったことのない面白さが確かにある。

さて、今回の参加俳優は、
DAY1:ユースケ・サンタマリア、松本穂香、橋本さとし
DAY2:荒川良々、黒木華、古舘寛治
という面々。

この豪華な面々で挑む戯曲は、「ゴッチン」(「ごっちん娘」改題)。
筋骨隆々の巨体を持つことにコンプレックスを抱く小学3年生の女の子、「ゴッチン」のお話です。
「いったい何の話だよ」と思うでしょうが、きっと俳優たちのほうがそう思ったに違いありません。

このイベントの配信が、9月6日までの期間限定でスタートしました。
ここではDAY1、DAY2の気になった場面をかいつまんで紹介しようと思います。


【DAY1】
冒頭、「配役は途中でどんどん変えていきます」と説明する岩井さんに、
岩井作品に出演経験のあるユースケさんは「入れ替えるの、よくやってたよな。でもそれ、彼のオナニーだから」といきなりの絡み。
いやいや、しかしその「役を入れ替えながら読む」というのが、この企画のキモなんですよ。

冒頭、昔ばなし風の老人の語りが入るのですが、まずさらっと読んだあとで、岩井さんの指導が入ります。

岩井「老人、いま何歳くらいでした?」
ユースケ「けっこう元気なじいちゃんでやりましたね」
岩井「じゃあ100歳…『あれ、しゃべってるけど木かな?』くらいで」

というやり取りを受けての、ユースケさん演じる「木みたいな老人」。
笑いをこらえきれないんだけど、「なるほど、これが演出か」と一発で企画の趣旨がわかる場面でした。


初見の台本だからもちろん読み間違えることもあって、
橋本さんが「逆上がり」を「逆上」と読んでしまった場面では、会場が超なごやかな雰囲気に。

七三分けで、つねに丁寧語の優等生「いけけん」を演じていた松本穂香さん。
岩井「すました感じよりも、つねに前歯が出てる感じで」
の指導で演じたいけけんは、見えないはずの前歯が見えているかのようでした。


【DAY2】
もちろん2日目もいろいろありまして。

例の老人の語りの場面で、
岩井「ものすごい昔の話にしたい。もう死んでるんじゃないか、みたいな。歯がいっこあるかないか、みたいな。
液体みたいなのが出てきて、『あれ? 液体が出てきたと思ったらしゃべり始めた』みたいな」
という指導を受けて、荒川良々さんがやった老人もすごかった。
俳優って、ちゃんと指示通りにアジャストしてくるものなんですね。
「1本だけ残った歯がプランプランしてる感」さえ感じました。


アジャストといえば、黒木華さんはゴッチンの友達・ゆきを、
初見一発目から岩井さんのイメージ通りにアジャストしてきたのはさすがでした。
岩井さんによると、すんなり合わせてくるのはあくまでも俳優がうまいからで、実際の稽古場ではこうならないことのほうが多いそう。


途中、本読みのスタイルについての雑談になりました。
ただ台本をじっと見たまま、淡々とセリフを読んでいくだけの本読みもありますが、
古舘寛治さんは「役者同士が目を合わせながら、コミュニケーションを取る感じで本読みをしたい」タイプらしい。その話を受けて、
岩井「じゃあさっきの場面を、顔を合わせながらもう1回やってみましょう」
となったのは、夢の中でゴッチンが片思いしている「たむけん」に優しく言い寄られる場面。
古舘さんと良々さんの、甘くて切ないやり取りがいい。そしてそれをじっと見つめる黒木さんもいい。
ぜひ見てほしい名場面です(配信を見ていると、ついセリフを目で追ってしまいがちになりますが、セリフを読んでいるときの表情も見どころなのです)。


トピック的に面白い場面ばかり書いてしまいましたが、
DAY1・DAY2ともに「いきなり本読み!」の真骨頂は、後半にあると思うのです。

いろいろ配役を変えながら、時に笑いを交えつつ演じ続けているうちに、
俳優も観客もそのキャラクターのことを深く理解していく。
配役が変わっても「そのキャラ」であることにまったく違和感を感じないほどに。

その状態で主人公ゴッチンが溜めてきた感情を一気に爆発させる後半の場面は、
本読みではあるけれども、観客はほぼ「演劇」そのものとして受け止めていたのではないでしょうか。
個々の場面での楽しみもありますが、キャラクターが、演劇が、
だんだん立ち上がっていく過程をまるごと見られるのが「いきなり本読み!」の楽しみの本質ではないかと思うのです。

もう一つ、気になったこと。
後半のある場面で、松本穂香さん(DAY1)と黒木華さん(DAY2)が同じ役を演じているのですが、
岩井さんからまったく正反対の指導をされていたのが興味深かったです(「台本をもらったら、まず何をしますか?」のアンケートの回答も含めて)。

笑ったり泣いたりしながら、演技の奥深さ、演劇の奥深さを垣間見ることのできる「いきなり本読み!」。
配信でぜひその楽しさを味わってみてください。