2022.3.15 TV.Bros 3⽉号 岩井秀⼈連載【ワレワレのモロモロ外伝】『愛の循環』

TV Bros.
文=岩井秀人

TV Bros. での岩井秀⼈連載『ワレワレのモロモロ外伝』 3⽉号が公開されました。
こちらでは冒頭部分をお読みいただけます。
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自転車熱は未だ冷めていない。最近では、ただ乗っているだけでは気が済まなくなり、ヤフオクやメルカリで可愛いやつがあると買ってしまうようになってしまった。もちろん自分の自転車はすでにあるのに、だ。おかげで現在、事務所の駐輪場やベランダに4台、実家の物置にも数台ある、という状態になってしまった。ちょっとした中古自転車屋さんである。

中古の自転車は、それなりに整備が必要なものが多い。中にはギアが全く動かない状態のものを、ジャンクとも言わずに売っている輩もいる。腹が立ったので流石に返品しようかなとも思ったのだが、以前こちらに書いた「自転車好きの善良すぎる妖精さん」によって「自転車界」に転生した男岩井としては、「これは自転車愛を試されている!」と受け止めるのが筋なので、YouTubeなどで色々調べながら、自力で修理している。

以前ならとっくに諦めてどこかに乗り捨てたりしてただろう、ギア周りの不調や、ブレーキがキーキーなっちゃうような症状も、落ちついて対処し、さらにはその整備こそが楽しい、という悟りの境地に達してきたようだ。

単純にブレーキの調整や、ギアの調整ができるようになり、ワイヤー交換によってジャンク自転車を元気に走らせることにも成功した。めちゃ楽しい。

古い自転車には素敵なデザインのものが多く、それでいてあちこちにガタが来ているので、直しがいがある。そして日本には「SHIMANO」という、世界的に有名な自転車用部品のメーカーがある。ブレーキパッド、ブレーキの機構、ギアの機構なども、実は2~3000円から買うことができるし、Amazonすればパーツは全て翌日に届き、じっくり取り組んでみれば、大抵のことは理解できて自力で修理することができるのだ。

さて、問題はその「元気になった自転車」をどうするか、だ。このまま増やし続けて、実家を自転車屋敷にするわけにはいかない。「妖精さん」のように原価で売るのも一つの手だし、ちょっと値段を釣り上げて再びオークションに出そうとも思いはしたが、なんだか楽しそうな気がしない。と、集まってきた自転車を見ながら思いついたのだが、男岩井の周りには、幸運なことに「演劇ビンボーピープル」がいる。普段、いろいろな台本を試し読みするために集まってくれる俳優たちに、この「元気になった持ち主不在の自転車」を差し上げてみることにした。これがまた嬉しいことなのだ。自分のお気に入りの自転車を購入し、修理し、好きな人にあげる。愛の循環である。金銭的な利益はないが、現在のところシンプルに「喜び」である。自分の人生にこういった行いがなかったので、人生の新たなステージに入ったのではないか、という転機感がある。

転機といえば、俳優レッスンというものも最近始めた。これは、我が事務所に俳優さんを呼び、一人で俳優練習をするための方法を伝えるというものなのだが、ありがたいことに大好評で、お金もちゃんと1万円とか取るのに、予約数15人くらいのところに200件近い応募があった。全く未経験のOLさん、演劇系の大学に入ったけどコロナで何もできずに応募してきた人、なんで君がいまさら来る?と言いたくなる、すでにハイバイにも出てる俳優さん、など、さまざまな人が事務所を訪れている。あ、一応書いておくと、女性一人で来ても怖くないように、女性スタッフが同席しますです。

このコロナの時期に、俳優さんは一際、孤独を味わっているように思う。ただでさえ演劇というものは社会に受け入れてもらえてない感じがするが、ことコロナ禍に至っては「集まるな危険」という一言で、演劇自体が否定されてしまう。俳優さんは「自分の夢のために誰かを犠牲にするのか」という論理一つで簡単に、幸福に向かうことを否定されてしまう。


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