2020.11.15 ハイバイ 「投げられやすい石」座談会

ハイバイ『投げられやすい石』9年ぶりの再演。「人生」や「才能」を扱ったこの作品が現代にどう響くのか? 20代〜30代の出演者4名と演出助手が作品や自身の価値観を語り合った。

インタビュー:池田亮(ゆうめい)岡本昌也(安住の地|本作の演出助手)
参加者:井上向日葵 岩男海史 町田悠宇 山脇辰哉
写真=平岩享

台本を初めて読んだ印象は?

岩男:初めて読んだのはオーディションでした。めちゃめちゃおもしろかったです。「えー」とか「あー」とかが多いから読むのは少し大変だったけど、めっちゃおもろいやんこれって。

山脇:ぼくもおもしろいなぁと。色んなことを隠してるなこいつら(登場人物)と思いました。

岩男:人物が全員説明できないような「乾き」というか「満ちていない」感じがある。僕は理路整然としてまとめて筋道をつけたがってしまう性格なので、相反しますね。コンビニの店員とか特に謎。いい意味で。

「才能」について

池田:ぼく美大出身で、表現で優劣がつく場合が結構あったんですけど、皆さんは「才能」についてどう考えますか?

岡本:中学くらいのとき、「俺が世界で一番おもろいやろ」って思ってましたけど、そこからボッコボコにされてます。「こんな(おもろい)やついんのか」の連続。怖い。これ以上誰も出てくんなって思ってます。

岩男:ぼくの才能があるとすれば、正直〝ハッタリ〟だと思うところがあります。ぼくは衣装家もやっていて。今、文学座の横田栄司さんや亀田佳明さんはじめ、僕の中で憧れの俳優さんたちと一緒にお仕事をしていてもう、衣装を作っている時は心底震えてるんですね。おこがましいというか、自分にセンスがないんじゃないかとか不安になったり。で、ちょうど昨日衣装合わせだったんですけど。準備して着てもらったらその時点で、ハッタリ出しましたね。「こんなんどうです?」って。

すると、横田さんが「すごいねぇ、今世紀最高の衣装だよ。素晴らしい才能だよ」って言われて、心の中では「いけたーー!!」って思いつつ口では「あざ〜す」みたいな「次はもう一段階、上のもの用意しておきますよ〜」てその場で調子いいこと言って。結果、昨日の夜、ヘルペスできました。

まあ僕の中ではハッタリですけどそれがちょっとずつ評価されて、またハッタリをかましての繰り返しというか。でも10年前かましていたハッタリよりはちょっといい気がする、みたいな。

山脇:中学2年生の時にもうだめだと思いました。普通に自分には何の才能もないと。勉強もちょっとできるしスポーツもちょっとできるし、なんでもちょっとできるんですけど、なんにもちゃんとできないんで。

2つ上のお兄ちゃんがいるんですけど、兄は勉強は本当にできなかったんですけど、お金を稼ぐ才能はあって。なんかスター性みたいなのがある。

池田:突出したものが才能?

山脇:勝つとか負けるとかの領域にないものを持っているのが才能だと思います。比べられてしまうものしか自分は持ってない。以上です。

井上:私は「才能」という言葉に向き合ったことがなかったなと思いました。自分に才能あるとも思ってないけど、ないとも思ってない。ある、ないって言葉に出しちゃうと……。例えば、うまいねって言われると今の自分をほめられたって気がするけど、才能ないって言われると今までもこれからも両方を否定されてしまう気がするというか。「才能」という言葉がまず怖いなと思いました。

池田:自信って、どういう時に変動したりしますか?

井上:稽古場だったり、作品をやった時に、人からもらった言葉でやっと自分を信じられるというか、人にポンともらった言葉で突っ走れる。まわりの反応がないと、自信は急になくなります。自分自身だけで突っ走れるほどの自信はまだないなって思います。

町田:僕はずっと探してたんですよ、自分の才能を。笑 

……でもいまは「あるんかな」って思ってるんですよ。ていうのも、何かが上手い下手とは別もんで、エンタメ界の才能ある人たちに見た目から中身から共通しているのが「日常にいてもスポットライトが当たってる」感じというか、「目を引く」というか。そういうのが才能だと思うんです。

学生の時、クラスで目立ってたやついたじゃないですか。ワーッと中心にいるタイプもいれば大人しいけど先生にすごい目をつけられてたり。あれってある種、先天的なものだと思ってて(エンタメ界は)そういう人たちの集まりなんかなって。そう思った時に、自分もなんやかんや騒がしかったなと。……じゃあ才能あるんかなと。笑

あと「おれには才能ある」って思った決め手があるんです。福岡で舞台をやった時に、まったく知らない人から「君、銀色のオーラだしてるよ」って言われたんですよ。「金じゃないの?」とは思ったんですけど、銀のオーラってアウトプットする人にはいいオーラだとその人に言われて、「よっしゃ」と。

岩男:誰なんですかそれ。笑

町田:後から聞いたら整骨院の先生だったので信憑性はちょっと怪しいんですけど。銀色もってるから才能あるって思ってます。

岩男:才能って何なんですかね。いま俳優の才能の話してますけど、さっき言ってたお金稼ぐ才能だったりYoutubeの才能だったり色々あるじゃないですか。自分がフィットするところを見つけることが出来ることが〝才能〟なのかな?

生きていく中で「見たくないものを見ないようにすること」

岡本:自分のダサさとか、世界のどっかで誰かが死んでってるとか、そういう見たくないものをできるだけ見ないようにしちゃうんですよ。この台本はそういう、生きてて極力見たくないものががっつり書かれているというか。見たくないけど確実にあるもの、みなさんどうされてますか?

池田:それこそ僕は美大卒業する1週間前に『投げられやすい石』を見たのでちょうど、見たくなかったものを見ちゃって「なんで今……」という感じでした。自分が作った作品が周りから全く評価されない可能性や、生活のこともあり好きなものだけを作って生きていくことはできないかもしれないという不安がより一層炙り出されて。でも、その見たくないものを見たことによって卒業後を見据える範囲は広がったかも。

町田:情報がいっぱい入ってくる中で、「見たくないもの」と「見るもの」ははっきりジャッジしたほうがいいと思っています。(この情報は)今の自分にマイナスに働くなって思ったらすっと平気で避けるし、でも基本的に情報と自分の線引きは、おれはするね。どうしても向き合わないといけないことはあるけど、きついもんはきついやん。耐えうる体力があるのか自分で判断してる。

井上:共感します。現実をもっと知らないといけないなって落ち込むときもあるけど。

でもなんか見ないようにするってことも悪いことじゃないんじゃないかな、って思ってます。これまともに受けるとつぶれるなって直感で思ったら、うっ…って思った瞬間にすっ…て一旦距離を置いてしまいますね。

山脇:僕は見たくなる。ダメージが力になると信じている。ボコボコにされて勝つみたいな。彼女が浮気してる携帯画面のやばい通知を見つけちゃったら、「はい、忘れないー」つって写真を撮ります。

町田:山脇くんダメージを受けすぎや。笑 刺さってても、抜くとかそういうことも必要かもしれんよ?

山脇:忘れるってことがすごい嫌いで。美化されたりするじゃないですか、思い出って。あの時きつかったのが、逆にいまはどうだとか。それが嫌で、そのままで記憶したい。

他人の不幸について

岡本:他人の不幸についてはどう接していますか?ぼくはわかんなくなります。

町田:これは答えやすいです。自分より弱い人。おじいちゃんおばあちゃんとかが困ってたら絶対助けるって決めてます、自分でどうこうできるだろって人には、しないと思う。

岩男:僕はあれです。「ブーメラン」って言葉を信じている。そんな善人でもないんですけど、不祥事とか社会的な不幸とか目にした時に、鏡のように自分ごとと考えられたらいいなって思ってる。

井上:できる範囲で思いやろうって思うんですけど、苦手というか。苦しんでいる人を前にした時、自分がその人に声をかけたことで相手をさらに傷つけるってことが一番怖いから、触らないようにしてしまうし、そんな自分をみて凹むし。触ってないことでさらに傷つけてるんじゃないかって思ったり……

町田:気にせんでええんやん?「自分でがんばり」っていうのでいい。それで自分が苦しむのもバカらしいしね。

岡本:かっこいい。

山脇:僕はやっぱり逆で「なんで不幸なんだと思う?」って一緒に考えようとしちゃう。

岩男:摩擦が好きなんだね、ヒリヒリしたいというか。

山脇:不幸でおれを超えてこいというか……

町田:ダメージを受けすぎや。笑

ハイバイ 「投げれやすい石」
特設HPはこちら

作・演出:岩井秀人
出演:井上向日葵、岩男海史、町田悠宇、山脇辰哉
東京芸術劇場シアターイースト 2020年11月18日〜24日
上田サントミューゼ  2020年11月28日〜29日
三重県文化会館 2020年12月5日〜6日