2020.10.07 第4回「いきなり本読み!」REPORT
文=西森路代(ライター)
写真=平岩と藤田
俳優たちが、舞台上でいきなり台本を渡されて読みあう様子を観客にそのまま披露するという、
ありそうでまったくなかったイベント「いきなり本読み」も10月7日で第4回を迎えた。
筆者は、第一回に続き、生で「本読み」を見るのは二度目になる。舞台の稽古を取材したことはある。
しかし、台本を持ちながらも、動きをつけ実際に演じているという状態であったり、
ゲネプロと呼ばれる本番さながらの様子だったりしか見たことがなかった。
だから第一回のときには、「本読み」という、舞台の稽古の始まりの、
俳優のまっさらな状態を見るということが新鮮すぎて、すごいものを見てしまったという感覚が残っていた。
第四回に出演したのは、演出家の岩井秀人さんと、片桐はいりさん、水川あさみさん、そして山内圭哉さんとう三人の俳優だ。
この日が岩井さんと初対面という水川さんの「未知すぎて怖いですよね、帰っていいですか」という冗談がこの企画を表していると思った。
今回は、川面千晶さん台本の『きよこさん』を読み進めていくのだが、台本が渡された瞬間に、
山内さんの関西弁のイントネーションでの「カワモ?」という第一声が響く。
川面さんは、ハイバイの劇団員で、『きよこさん』にも川面という本人を描いたキャラクターが出てくるのだ。
やがて、一場の本読みが始まる。
最初は、ごくごく普通の飾らない女性という雰囲気で「川面」を演じる水川さんだったが、
山内さんの「ふてぶてしく美容マニア」という実際の川面さんについての情報が開示されると、
水川さんの口調も、それ以降はちょっとふてぶてしく変わっていく。
「お願いします」という台詞が水川さんによって「おなしゃす」に変わっていたのは吹き出しそうになった。
対して一場できよこさんを演じるのは山内さん。
カワモもきよこさんも、ホステスとして働いている。
そんな中でもきよこさんは、年齢もほかのホステスよりも上で、「お笑い担当」って感じなのに、
そのギャグも寒く、一緒に働く人からなんとなく疎んじられているような人物だ。
山内さんも、そのきよこさんの独特のノリを観客を前に探していく。
そこに来るお客の白髪の祖父とイケメン・坪井を演じるのは片桐さん。
スマートすぎる役の解釈に、すっかり聞いているこちらにも、キャラクターのイメージが脳内にできあがる。
岩井さん曰く「すましが行き過ぎていますが、それで行ってください」ということで、坪井はこの感じでいくことになる。
ちなみに坪井は妻帯者だが、川面を気に入っていて、川面もまんざらではない、いやそれ以上の感情を抱いているようだ。
ということがより明確になるのは、岩井さんから川面を演じる水川さんへの演出として、
「ふてぶてしいけれど、坪井のことを話してるうちに、うれしくなってくる感じ」
にしてほしいというリクエストがあったからだ。
こういう一言で、演じる側も見る側も、なんとなくそのキャラクターへの見方や解釈が変わっていくのが面白い。
しかし、役はすぐにシャッフルされる。
二場では、片桐さんが川面、水川さんがきよこ、山内さんがマスターを演じる。
新たに、きよこは、46歳で酒焼けした声だろうということ、
三代目J SOUL BROTHERSのファンだということなどの情報が見えてくる。
物語としては、きよこが、川面と坪井の不倫の恋に対して心配をしているという場面が描かれ、
それをきっかけに、川面ときよこが近づいていく様子が描かれる。
二場は更にシャッフルを重ね、川面を山内さんが、きよこを片桐さんが演じるのだが、
関西弁の川面と、川面を心底心配しているきよこのやりとりに引き込まれる。
三場では、きよこさんに大事件が起こる。
今回は、短い台本だということで、物語の結末まで「本読み」が行われ、
きよこさんがどうなっていくのか、完結したストーリーをこのイベント内で知ることができた。
ふてぶてしかった川面と、疎んじられていたきよこに、不思議な情が生まれて行く様子は、
ちょっとおかしみのあるからこそ、ほろりとさせるシスターフッド作品とも思えてくるし、
この台本のオチが落語のサゲようにスコーンと決まっていて気持ちがいい。
本読みを見ているだけなのに、演劇を見るときとも違った、
じわーっとした感情に包まれて、浅草東洋館を後にすることができた。
そんな風に、「いきなり本読み」は、演劇とは趣の違う体験であり、
また、俳優が芝居を作る過程が見られることで、
もしかしたら観劇するよりも深いのではないかと思われるような解釈が見つけられる、独特の感覚が得られるイベントなのだ。
合間のトークも、笑えて、そんなことを考えて俳優は芝居をしているのか!というエピソードが次々と出てくるのも楽しい。
しかし、岩井さんは、自分の台本はもうこのイベントでやりつくして(台本も売りつくして)しまったと語っていたが、
もしかしたら、同じ台本でも、別の俳優たちで「いきなり本読み」をすることで、
また違う視点から物語を味わうことができるのかもしれないとも思えてしまった。
第五回、第六回も楽しみにしています!
第4回「いきなり本読み!」映像配信
・チケット受付:ZAIKO by ローチケにてお取り扱い
・購入可能期間:10月7日(水)19時~11月8日(日)23:59
・視聴可能期間:10月21日(水)18時~11月15日(日)23:59
・チケット価格:1200円(税込)