REPORT
2025.11.28『いきなり本読み!in三越劇場』柴田理恵×高橋文哉×松岡茉優×マギー 公演レポート
取材・文/丘田ミイ子(X:https://x.com/miikixnecomi)
撮影/平岩享
11月28日(金)、東京・三越劇場にて岩井秀人(WARE)プロデュース『いきなり本読み!』が開催された。

「出来上がった作品を見るより、稽古場の方が絶対おもしろい!」。そんな岩井のアイデアから端を発した本シリーズも今年で6年目に突入。
中でも、昨年2025年は4日間連続開催の『いきなり本読み!in BOOTCAMP!』やオール声優キャストで送る『いきなり本読み!Voices』、演技未経験者も参加OKの『ちょっといきなり本読み!』の地方での開催や「いきなり本読み!」に適した台本の発掘を目的に立ち上げられた『いきなり本読み!台本アワード』など、新展開も目白押しとなった。
そんな“いきなり本読み!イヤー”とも言える2025年のラストスパートを飾るべく、三越劇場では11月、12月に二ヶ月連続開催。本記事では、11月28日回のレポートをお届けする。

これまで総勢75名を越える個性豊かなキャストが名を連ねてきた『いきなり本読み!』だが、まだまだ相次ぐ名優の出演、そして、その日1日限りの奇跡の共演に話題を事欠かないのが本シリーズの魅力である。
今回は柴田理恵、高橋文哉、マギー、松岡茉優の4名の名優が一堂に集結。この4名でその場で配られた台本、その場で割り当てられた配役、そして、その場でつけられた演出に応答しながら、文字通り「いきなり本読み」をする。
これが本シリーズの概要ではあるが、いきなり繰り広げられる本読みをただ目撃するだけでは終わらない。いや、「いきなり発生するのは本読みだけではない」と言った方がわかりやすいだろうか。
今日限りのキャストのいきなり奇跡の共演、観客もまさかのいきなり出演、そしていきなり生まれる名演技の数々…過去レポートでもお伝えした通り、『いきなり本読み!』とは “創作の出発点と過程”を観客と広く濃く共有する試みそのものなのである。
強烈な個性が渋滞! 魅惑の俳優大集結
なんといっても、普段はベールに包まれている俳優の本読みの様子、すなわち「役を演じる」上での第一歩目に立ち会えることが『いきなり本読み!』の醍醐味である。
今回は過去回に参加をしたことのある高橋とマギー、対して初参加となる柴田と松岡と、四種四様のアプローチの違いや化学反応も見どころとなった。その様子を詳報する前にそれぞれの紹介を前置きしたい。
2019年のデビュー以降、話題のドラマや映画で大活躍の高橋文哉。昨年はNHK 連続テレビ小説『あんぱん』や映画『夏の砂の上』にも出演し、これまで以上の飛躍を見せた。さらに2026年1月末公開のアニメ映画『クスノキの番人』では声優としても初主演。そんな多忙の隙間を縫って『いきなり本読み!』には二度目の出演。
幸運なことに、私は高橋の初登場回であるCoRich舞台芸術!×岩井秀人(WARE)プロデュース『いきなり本読み!』にも立ち会っており、観客の想像を軽々と裏切る高橋の快演&怪演を目撃している。
今回も登場前からさらなる注目と期待を集めたが、その想像をさらにさらにと越える表現力の高さを以て、役柄が変わる度にそれぞれ違った横顔を添えた。

今年だけで早くも4回目の出演となるマギー。初参加となった『いきなり本読み!in BOOTCAMP!』では「とっさにポケットに入ってた武器で戦うヒリヒリ感」と「岩井さんに身を委ねるリラックス感」と現場の愉しさを形容し、「出てみたらドンピシャ楽しかった!」と自身のSNSに興奮を綴った。
その楽しみぶりに、岩井からも「なぜ初めてのはずなのにこのヒトは『いきなり本読み!の住人』のような存在の仕方をしているのか、不思議でならなかった!」と初登場にしてお墨付きを受けたほど(笑)。
今回も、自劇団のジョビジョバをはじめ、数々の舞台経験で培った瞬発力とユーモア溢れる笑いで会場を度々賑わせた。

今回が初参加となる柴田理恵も言わずもがな、根っからの演劇人。WAHAHA本舗旗揚げ以降、劇団内外数多くの舞台に出演するほか、映像では朝ドラや大河ドラマなどの話題作にも出演し、『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』ではハリウッドにも進出。
鬼気迫る祈祷姿と圧巻の演技が話題となった映画『来る』での霊媒師役や、貫禄と温かさを併せ持った女性市長を好演したドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も記憶に新しい。
ホラーからホームドラマまで、あっという間に“その世界の住人”となってのける大ベテラン柴田は、やはりここでも、“いきなり”熱演を繰り広げた。

柴田と同じく初参加となったのが、松岡茉優。発表の際には、岩井も「オファーしておきながらも、制作チームみんなでえっ!?って思いました。そうです。とうとう出てくれちゃいます」と驚きと喜びのコメントを寄せた。(実は、岩井とは映画『桐島、部活やめるってよ』で共演済み!)。
ドラマはもちろん、東京国際映画祭で観客賞に輝いた『勝手にふるえてろ』や、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した『万引き家族』などの話題映画にも相次いで出演し、それぞれに代わりのきかない鮮烈な存在感を刻んだ。
思わず息を飲むような、瞳の色まで変えるかのような見事な表現力で見る者を魅了する松岡だが、『いきなり本読み!』ではコミカルな魅力も大放出! 舞台と客席を横断した掛け合い、そのムードメーカーっぷりにも会場全体が和んだ。

四種四様のアプローチ、それを促す“いきなり演出!”
開演時間になると、いきなり本読み!オリジナル法被を身に纏った岩井が現れ、出演者がステージ上に呼び込まれる。のが、大体毎回のお約束なのだが、今回は一味違った。岩井の呼び込み前に出演者が続々と登場したのだ。
「みんないくぞー!ってマギーさんが言ったから飛び出ちゃった!」と愛らしくはしゃぐ松岡と、「(いきなり本読み!は)何させられるかわからないんでしょ?」と困り顔の柴田の掛け合いに誘われ、冒頭から会場は笑いに包まれる。

前のめりの登場からも団結力と意気込みが感じられるが、今回の出演者も類に漏れず、(おそらくは)今日限りの一度きり。そして、“いきなり”というこの設えによってこそ、その共演が叶っていることは言うまでもない。
ブレイクもほどほどに、早速今宵の台本がそのタイトルは伏せられたまま配られ、配役が告げられる。
物語の舞台はとある町。先日起きたばかりの奇妙な殺人事件を報道するキャスター、時を同じくして行方不明になった数日後に保護された夫・真治、そんな夫との不和を抱えつつも渋々病院に駆けつける妻・鳴海、真治の様子に不可解さと関心を寄せる主治医・大森。
そんな4名の登場人物をそれぞれマギー、高橋、柴田、松岡が演じる。
物語の設定や人物の背景はもちろん、役柄の年齢や性別も明かされないまま台本を読み進めるため、俳優陣はいきなり発覚する情報の数々にアドホックに対応しながら、人物像を深めていく。

その様は、まさにどこを見ても見どころ満載の瞬発力のレース、技量に次ぐ技量のショーケース! 物語の核となる夫婦を演じる高橋と柴田を筆頭に、初セッションとは思えぬ濃密さで相手の台詞に呼応したリアクションを重ねながら、それぞれが夫婦の異変と物語の核心にじり寄る。
役の感情や生理を瞬時に読み込み、シームレスに次のセリフへと引き継ぐ高橋の感度の高さたるや! さすがのいきなり本読み!経験者でもある。

一方、ビギナーである柴田は物語の行先がわからない戸惑いすらも演技に活かし、本心の見えぬ夫に対する妻の困惑をするりと体現してみせた。やはり、“世界の住人”になる速さにベテランの技が光る。

その様子に「いやー素晴らしい!」、「(松岡・柴田に対して)初めてとは思えない!」と一発目から感激を伝える岩井。客席からもドッと拍手が湧くが、まだまだ序の口。ここから新たなミッションを次々とブッ込んでいくのがこの企画の肝であり、本読みという所業の奥深さでもある。
次なるミッションは、配役のシャッフル。
そう、『いきなり本読み!』は1人1役と固定がされていないのだ。つまり、一夜限りの奇跡の共演に加え、異例のダブル、トリプル、クワトロキャストでの上演。そんなことが一度に叶うのも、おそらくこのステージ上だけだろう。
そんなこんなで、二度目の配役では高橋がキャスター、マギーが真治、松岡が鳴海、柴田が大森を演じることに。その配役を告げられた瞬間、すかさずマギーが「マギー真司?!別人になっちゃった!」とつぶやき、会場は大爆笑。しかしながら役に入ったら一転、夫の不審な言動をリアリティたっぷりに表現。

そんな夫の今までにない態度に戸惑う、というよりも苛立ちを隠せない鳴海の様子を受け、「なるほど、好感度低めな感じですね」と即座に演技プランを練る松岡。身振り手振りを加えながら、生々しく苛立ちを表現するその様子に、思わず「好感度って調整できるものなんだ!」とマギーからも驚きの声が上がった。

浮気性でどうしようもなかった夫が行方不明事件を経て、人が変わったように優しくなっていく。その様子はどこか「人間らしさ」を取り戻していく過程にも見えるのだが、実はそんな穏やかな話でもなさそうで…。
出演者の熱演に連動して、物語の展開にもうねりが見られ、客席の没入度もみるみる上昇。岩井からも「ここから話はどんどん大きくなっていきますよ」と、いくつかの演出とともに物語の手がかりや役柄のヒントが提示される。
限られた情報を駆使して豊かな表現を繰り広げる俳優陣もすごいのだが、毎度ながら感動するのが、この岩井の絶妙な塩梅の提示とオーダーである。

物語のネタバレは回避しつつ、その役柄に応じた俳優のアプローチをそこはかとなく促す的確な演出。あくまで小出しにしつつも、端々に予感を忍ばせた情報の伝え方。いきなり本読み!は、すなわちいきなり演出!でもあるのだ。
1回目があっての2回目の変化、2回目を経ての3回目のうねり。着々と仕上がっていく様子に、演劇が積み重ねであること、過程の連続であり芸術なのだということをつくづく思い知る。
それぞれのアプローチで本読みに「遊び」と「挑戦」を加えていく4名とを見るにつけて、今回はいつにも増してそんなことを痛感した。
お待たせしました! 「お前」のみなさんのご登場です
物語もクライマックス直前。そんな大事なところでこそ、もはや恒例の大展開投入。待ってました!と言わんばかりの舞台と客席の夢の共演。ズバリ、「お前も本読み」タイムである。

これは、昨年より新たに導入された試みで、前方2列に設けられた「お前も本読みシート」を購入した観客が、呼んで字の如く出演者とともにいきなり本読みに参加するというもの。
「お前も本読みシート」に座った観客には一人ずつセリフが割り振られる。物語のクライマックスに、マイクを回され、名優たちとガッツリと共演するのだから、「お前」のみなさんもドキドキ、ハラハラ!
しかしながら、この試みの面白いところは、観客だって決して負けてはいない点である。そう、毎回“想定外の名優”の爆誕が目撃できるのだ。
「みんなでいっしょに作っていこう」というマギーの頼もしい一言や、「大丈夫大丈夫!」という松岡からのエールに背中を押されるように、俳優陣に負けじと役になりきるお前のみなさま! その一致団結さたるや、岩井が思わず「もしかして、どっかで練習してきた?!」とツッコむほど(笑)。

「お前」のみなさんの名演が繰り広げられる度に他の客席からも大きな歓声があがり、会場の盛り上がりはピークを迎えた。
過去のレポートにも記した言葉であるが、この瞬間にこそ、私は毎度ながら核心に触れたような心持ちになる。
稽古の様子をただ見せるだけでなく、そこに観客も当事者として参加する。「本読み」の面白さと豊かさ、ひいては舞台芸術の本質と魅力をより観客へとひらくべく開発されたこの時間は、予測不可能で、かつ可能性に満ちていて、まさに「これぞライブ、これぞ演劇!」という魅力が詰まっている。
本読みは、演劇は、誰でも、どこからでも始めることができる。そんなメッセージをも感じる一幕に、笑いながらもつい胸が熱くなるのだ。

いきなり本読み!が「絶対おもしろい」理由
さて、そんなクライマックスも越え、物語はいよいよラストへ。
何気ない日常がSFへと侵されゆく様を描いたこの名戯曲は、イキウメを主宰する劇作家・前川知大による『散歩する侵略者』であった。
地球を侵略しにやってきた宇宙人によって人間の持つ「概念」が少しずつ奪われていき、実体を持たない宇宙人は人間の内部に寄生し、その意識と一体化することで侵略を果たす。つまり、「概念」を奪われ、意識が一体化してしまったその人はその人ではなくなり、同時にその人の姿形であり続けるというわけである。
“絶望がやってきた。愛する人の姿で―”

そんなキャッチコピーにあるように、ラストは、宇宙人に侵略された真治に、それでもなお真治を愛さずにはいられない鳴海が、「愛」という概念を明け渡すまでの会話が展開する。
会話を重ねる毎に深刻になっていく世界の状況を、そして複雑さを増していく夫婦の関係を繊細に表現する4名の名優たち。
世界の終わりと愛の喪失、絶望と哀切の滲んだその異変と変異には、何度立ち会っても心がふるえてしまう。類を見ぬ素晴らしい戯曲。
でも、それだけではないのだ。静かに物語の終わりへと、心の深淵へと重ねられていく俳優の声にこそ、言葉の力は宿るのである。
そして、そんな俳優の所業の鮮やかさを、素晴らしさを手の届きそうな場所で体験できるということ。「本」の、「本読み」の、「稽古」の、「演劇」の豊かさを舞台と客席を横断して、ともに感じることができるということ。
「出来上がった作品を見るより、稽古場の方が絶対おもしろい!」
岩井がこの企画の「絶対おもしろい!」に込めた想いは、きっとそこにある。『いきなり本読み!』に立ち会う度に、私はそんな気がしてならないのだ。そして、それこそが、『いきなり本読み!』が、「いきなり繰り広げられる本読みをただ目撃するだけ」ではない所以である。
同じストーリーや役柄でも人が違えば、別の横顔が見えてくる。そうして人の数だけ人物は存在し、ドラマは発生する。物語の内外で。そう思うとき、「本読み」の、「稽古」の、「演劇」の可能性が無限であることをつくづく思い知る。
次はどんな名優の、そして観客との共演に立ち会えるだろう。どんな本に、本読みに、稽古に、演劇に出会えるだろうか。2026年もそんな“いきなり”の出会いを心待ちにしたいと思う。
